税金亡命やキャピタルフライトという言葉をお聞きした方も多いかもしれません。その国の税金が高いならば、例えば相続税などの税金対策としてキャピタルフライトなどを考えたことのある方はきっと多いことでしょう。
国外の資産については日本の税金が発生しないと考えている方もきっと多いはず。
そこでここでは、国外財産調書の概要や、提出義務、また提出しなかった場合のペナルティーについて説明します。
目次
国外財産調書とは
国外財産調書制度とは、イメージしやすいように簡単に言うと、国外に5,000万超の財産を保有している方は税務署にその財産を記載した調書を提出する必要がある制度のことです。
国外にある財産については申告漏れが生じやすい状況にある結果、必然的に課税漏れが生じやすいとも言えますし、また富裕層がタックス・ヘイブンに資産を移して課税を免れようとする実例も少なくありません。
こうなると、国内にしか財産を有しない個人と海外に資産を移転させた個人では公平に納税しているとはいえない状況になってしまいます。
こうした不都合(不公平)を回避することを目的の1つとして、国外財産調書制度は創設されました。
国外財産調書の提出義務
この国外財産調書は、必ずしも全ての居住者が提出しなければならないわけではありません。国外財産調書を税務署に提出する義務のある方は次の方です。
- 非永住者以外の居住者
- 12月31日に合計額が5,000万円を超える国外財産を保有すること
この要件を満たす方は(基本的には富裕層)、翌年の3月15日までに国外にある財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した調書を税務署に提出する必要があります。
ちなみに非永住者とは、居住者のうち日本の国籍を有しておらず、かつ過去10年以内において国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年以下である個人のことです。
国外財産調書を提出しないときの罰則
非永住者以外の居住者で国外に5,000万円超の財産を保有するときは、国外財産調書の提出義務があるわけですが、この調書の提出をしないときには罰則が設けられています。
例えば、偽りの記載をして国外財産調書を提出した場合、または正当な理由がないのに提出期限内に国外財産調書を提出しなかった場合(※)には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金になることとされています。
※ 情状による刑の免除されることがあります。
基本的には厳しい罰則が設けられていて、また次のような事件も発生し話題になりました。
脱税した金を海外口座に隠したうえ、海外に計5千万円超の資産を保有する個人に義務づけられる「国外財産調書」を提出しなかったとして、大阪国税局が国外送金等調書法違反(不提出)と所得税法違反の罪で、家具輸入販売会社の社長(49)=同区=を京都地検に告発したことが29日、関係者への取材で分かった。国税庁によると、国外財産調書制度が導入された平成26年以来、調書不提出による国外送金等調書法違反罪での告発は全国初。
産経新聞
相続と国外財産調書
国外財産調書は、相続の開始で提出しなければならないこともあります。
国外財産調書の提出義務の有無は、その年の12月31日において判断することになっているので、相続人の国外財産調書の提出義務については、(1)その年の12月31日において遺産分割が行われていない場合は、法定相続分であん分した価額により判断し(相続開始前に保有していた国外財産に相続した国外財産の法定相続分を加算する)、(2)遺産分割により相続人それぞれの持分が定まっている場合は、それぞれの持分に応じた価額により判断することになります(相続開始前に保有していた国外財産に相続した国外財産を加算して判断する)。
(遺産分割には遡及効があるので、遺産分割が行われた場合に相続人は、相続開始時に遡って被相続人の国外財産を取得することとなりますが、遺産分割の遡及効は、遺産分割までの共有状態まで否定するものではないと考えられています。)
そのため、国外財産調書提出後に遺産分割が行われた場合に、遺産分割による持分で再計算した国外財産調書を再提出(法定相続分であん分した価額により提出義務がないと判断していた場合は、新たに提出)する必要まではありませんが、遺産分割の結果を踏まえ、訂正した国外財産調書を再提出(又は提出)しても構わないことにはなっています。