2015年より相続税法が改正され基礎控除額が下がったことで、相続税を申告した人が約2倍増えました。
相続税法改正直前の申告割合は約4.41%でしたが、改正直後の相続税申告割合は7.98%です。
いずれにしても、基礎控除額が下がったことで相続税の納付可能性は上昇しています。
相続税の納付可能性が上がったとしても、何らかの方法を活用して相続財産の評価を下げることができるならば相続税の納付を免れる方は多くいらっしゃるはず。
そこで今回は相続税を8割節税できる小規模宅地等の特例についてわかりやすく解説します。
目次
小規模宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例とは、個人が、相続又は遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等又は被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分(以下「小規模宅地等」といいます。)については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額することができる特例のことです。
この小規模宅地等の特例の特例について、もう少し噛み砕いいて言うと、小規模宅地等の特例とは一定の要件を満たすことで土地の評価を減額できる制度のことです。
小規模宅地等の特例に関するキホン用語の確認
税法独特の言葉使いがありますので、小規模宅地等の特例について解説する前にキホン用語について確認します。
ここでは宅地等のことを、単に「宅地」ということにします。
「生計を一にする」は、なかなか馴染みのない言葉だと思いますが、小規模宅地等の特例の要件を考える際に理解が必要となることがあります。
小規模宅地等の特例のメリット
小規模宅地等の特例のメリットは、相続財産の評価額を減額させて相続税を節税できる点です。
簡単な例で説明すると、土地を路線価で評価した評価額が基礎控除額を越えていれば相続税を納付するとになりますが、小規模宅地等の特例を活用して土地の評価額が8割減額され課税遺産総額が基礎控除額以下になれば、相続税を納付する必要がないことになります。
土地の評価額が8割減になり相続税を免れるとすれば、言うまでもなく、相続人にとってはかなりのメリットになるはずです。
小規模宅地等の特例の要件
小規模宅地等の特例には、(場合によっては)相続税を免れるメリットがあることがわかりましたが、この特例を活用できるためには次に説明するような要件を満たす必要があります。
ここでは、小規模宅地等の特例を活用するための要件について説明します。
被相続人の居住の用に供されていた宅地
小規模宅地等の特例を適用できるか否かは、まず「被相続人が居住していた宅地」か、それとも「被相続人と生計を一にしていた親族が居住していた宅地」かに分類して考える必要があります。
宅地を配偶者が取得するとき
- 被相続人が居住していた宅地の場合には、配偶者がその宅地を相続や遺贈によって取得すれば小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
(親族が宅地を取得するときと違い)、配偶者が被相続人が居住していた宅地を相続や遺贈によって取得すれば小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
※ 親族が宅地を取得するときには、(小規模宅地等の特例を活用するためには)更に要件を満たす必要があります。
被相続人が住んでいた一棟の建物に「居住」していた親族が宅地を取得するとき
- ① 相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住し、かつ、② その宅地を相続開始時から相続税の申告期限まで有してれば、小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
配偶者が宅地を相続する場合と違い、親族が宅地を取得するときには、この①と②の要件を満たさなければ小規模宅地等の特例を活用することはできません(配偶者の場合にはこの①と②の要件がない)。
注 被相続人と同居していない親族が宅地を取得した場合にも、一定の要件を満たせば、特例の適用を受けることができますが、この点については補足で説明します。
被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地
被相続人と生計を一にしていた親族が住んでいた宅地に小規模宅地等の特例が適用されるか否かも、その土地を「誰が」承継するかによって要件が異なります(判断の順序を参照)。
宅地を配偶者が取得するとき
- 被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地を配偶者が取得する場合には、配偶者がその宅地を相続や遺贈によって取得さえすれば小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
宅地等を被相続人と生計を一にする親族が取得するとき
- ①相続開始前から相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住し、かつ、②その宅地等を相続税の申告期限まで有していれば、小規模宅地等の特例を活用することができます。
親族が被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地を取得するときには、(小規模宅地等の特例を活用するために)要件(①と②)を満たす必要があります(配偶者の場合にはこの①と②の要件を満たすことなく、小規模宅地等の特例を活用することができる)。
小規模宅地の特例の要件(補足)
被相続人が居住用の宅地として使用していたときに、同居していなかったり、生計を一にしていない親族でも小規模宅地等の特例を活用できるケースがあると説明しました。
ここでは居住用の宅地を配偶者や同居の親族以外の親族が取得したときに小規模宅地等の特例を活用できるための要件について補足して説明します。
被相続人の居住用の宅地を配偶者や同居の親族以外の親族が取得して小規模宅地等の特例を活用するためには、次の1から6までの要件をすべて満たすことが必要です。
- (1) 居住制限納税義務者又は非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではないこと
ほとんどの方はこの要件は満たすはずです。
- (2) 被相続人に配偶者がいないこと
配偶者が既に亡くなっているときには、「被相続人に配偶者がいない」という要件を満たすことになります。
- (3) 相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた被相続人の相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)がいないこと
わかりやすく言うと、相続開始の直前に被相続人と同居していた法定相続人がいないことということです。
また相続放棄をすると(民法上は)初めから相続人でなかったものとみなされますが、ここでは放棄はなかったものとされます。
例えば、被相続人と同居していた相続人が相続放棄したとしても、民法上は被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた相続人はいないことになりますが、小規模宅地の特例の要件を判断するうえでは、相続放棄がなかったものとして扱われ、この要件は満たさないと判断されることになります。
- (4) その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること
相続人は、宅地を相続開始時から相続税の申告期限まで有している必要はありますが、居住する必要まではないので、申告期限まで賃貸しても構いません。
- (5) 相続開始前3年以内に日本国内にある取得者、取得者の配偶者、取得者の三親等内の親族等が「所有」する家屋に居住したことがないこと
例えば、相続開始前3年以内に相続人の配偶者が購入したマンションに居住していれば、この要件は満たさないことになり、小規模宅地の特例は活用できないことになります。
- (6) 相続開始時に、取得者が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても「所有」していたことがないこと
例えば、相続が開始した時に相続人が購入したマンションに居住していれば、この要件は満たさないことになり、小規模宅地の特例は活用できないということです。