民法(相続)が改正されたことは既にご存知の通りで、改正対象になった自筆証書遺言における財産目録の記載の仕方については平成31年1月13日から施行されています。
また民法改正で遺留分の計算の仕方等についても改正されています。
そこで今回は、改正となった遺留分について詳しく解説します。相続対策や、相続手続きで揉めないために事前にご確認ください。
自筆証書遺言の改正についてはリンク先で確認できます。
目次
遺留分とは
遺留分の改正について解説する前に、まずは遺留分の意味について確認します。
兄弟姉妹以外の相続人は、最低限の相続分は保証されていますし、例えば、被相続人が相続財産の全てを愛人等の第三者に遺贈したときに、相続人は最低限の相続分を自分に引き渡すよう第三者に請求(遺留分減殺請求)することができます。
遺留分は金銭債権に
従来は遺留分減殺請求がなされると、減殺の対象となった財産が共有になってしまうという不都合がありました。
例えば、子が、自分と不仲の配偶者(被相続人の後妻)が相続した唯一の相続財産(建物)に遺留分の減殺請求をするとその建物を両者が共有することになっていました。
共有状態を解消するには分割手続き等が必要ですし、分割手続きが不調なときには共有持分だけを第三者に売るのはとても難しいです。
金銭で請求することで遺留分の減殺請求を受けた財産が共有状態になるという不都合を回避することができるようになります。
生前贈与があったときの遺留分の取り扱い
従来、遺留分を算定するときには、第三者に対する生前贈与は相続開始前1年間の贈与に限り計算上考慮することになっていましたが、相続人に対する生前贈与については期間を限定することなく全てが参入することになっていました。
しかしこれでは、相続人に対する過去の贈与の有無などによって第三者が遺留分の侵害請求される範囲がかなりの影響を受け、第三者にとっては酷(不安定な立場になる)なので、相続人に対する生前贈与については相続開始前10年間の贈与だけが遺留分の算定上考慮されることになりました。
– | 改正前 | 改正後 |
相続人に対する生前贈与のうち遺留分の算定対象になる贈与 | 過去の贈与すべて | 10年以内の贈与(婚姻・養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与) |
不相当な対価があったときの遺留分の取り扱い
遺留分を算定するときには相続開始の時において被相続人が有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して算定することになっています。
したがって、実質的に1億円の価値があるものを1,000円で購入したことにすれば贈与にあたらず遺留分の算定から免れることも考える人もいるはず。
こうした不相当な対価での偽装売買等については、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り贈与とみなして、遺留分の算定に加えることになります。
この点は改正前と変更ありません。
ただ従来、減殺請求の対象は売買等の全額でしたが、不相当な対価を除いた残額に限定されることになりました。
例えば、時価1,000万円相当の建物を200万円で売買したとします。
従来は1,000万円相当の建物に対して減殺請求をし、遺留分権利者が200万円を返還するという流れでしたが、改正によって金銭で800万円を請求するというようなイメージになります。
遺留分侵害額算定の違い
まず従来の遺留分減殺請求は、「遺留分侵害請求」という名称に改められることになりました。
そして「遺留分侵害額」は、従来の計算式で計算したときと比べて、少額になることがあります(必ずしも少額になるとは限りません)。
遺留分額が小さくなることがある理由は、(既にお伝えしたように)相続開始10年前にした相続人に対する贈与は遺留分算定の基礎に加算されなくなるからです。
遺留分侵害額の計算例
最後に、遺留分侵害額算定の計算例について説明します。
・被相続人は相続開始18年前に甲に対し生計の資本としてA土地(1,200万円相当)を贈与(両者に加害の認識なし)
・被相続人は第三者の丙にB土地(2,000万円相当)を遺贈し、乙にC土地(4,000万円相当)を遺贈
・その他に相続財産はない。
このような事実関係があったとして、改正前と改正後で遺留分の侵害額を計算してみます。
(遺留分侵害額の計算式ではなく)遺留分の計算についてはリンク先で確認できます。
改正後の遺留分侵害額は次の通りです。
したがって、改正後の遺留分侵害額の方が300万円小さくなります。
遺留分の侵害額を請求した結果は、改正の前後で異なります。この点についてはリンク先で解説しています。