民法が大幅に改正され、相続の分野も大きく影響を受けることをご存知の方は多いはずです。
相続分野の改正にあたって、改正の目玉の1つは間違いなく配偶者居住権です。
そこで今回は、今後の相続に大きな影響を与える配偶者居住権について解説します。
今後の相続対策に備えるためには必読です。
目次
配偶者居住権とは
配偶者居住権とは、配偶者が、被相続人の相続財産に属した建物に相続開始時に住んでいたときに、その建物について、原則として一生継続して無償でその建物の使用を認めることを内容とする法定の債権のことです。
この配偶者居住権は、初めて創設された全く新しい権利で、高齢化社会の進行で相続も増えますので、配偶者居住権はかなり普及すると予想できます。
建物に居住し続けるためには、遺産分割等でその建物の所有権を取得するか、またはその建物を相続した他の相続人と賃貸借契約を交わす等することになります。
建物を相続したときには、その評価額が高額となり(他の相続財産を取得できなくなることがあり)その後の生活に困るという不都合が生じます。
また建物を相続した他の相続人と賃貸借契約をするとしても、相続人間の関係性によっては賃貸借契約を締結できない不都合が生じることもあります。
こうした不都合を回避するために配偶者居住権が創設されることになりました。(配偶者居住権の評価については後述します)
配偶者居住権が認められるための3つの要件
配偶者居住権が認められれば、相続発生前と同様に配偶者がその建物に居住し続けることができます。
そしてこの配偶者居住権が認められるためには次のような要件を満たす必要があります。
配偶者居住権の要件
- 相続開始時に被相続人が対象建物を所有すること(建物が被相続人の相続財産であること)
配偶者居住権は、配偶者が被相続人の相続財産に属した建物に相続開始のときに住んでいたときに、その建物について、原則として一生継続して無償でその建物の使用を認めることを内容とする権利ですので、対象建物は相続開始時に被相続人の所有となっていることが必要です。
- 相続開始時に配偶者が対象建物に住んでいること
配偶者居住権が創設された趣旨が「被相続人に相続が発生したときに配偶者はこれまで居住してきた建物に住み続けたい」と考える配偶者の居住権を保護する点にあるので、この要件が求められるのは当然と言えます。
- 遺産分割(調停含む)や、遺贈(死因贈与含む)、家裁の審判で配偶者居住権の取得が認められること
配偶者居住権は、遺贈はもちろん、遺産分割協議や遺産分割審判によって取得することができます。
配偶者居住権の評価方法
配偶者居住権がいくらで評価されるか、その評価方法についてはとても大切になりますし、相続人の関心も高いはずです。
この式をざっくり説明すると、建物の時価から配偶者居住に利用されない期間の建物の時価を控除して、配偶者居住権を評価しています。
配偶者が居住し続けることになる建物は、土地に対する権利(借地権)がないと存続できないことになるので、その敷地利用権も評価する必要があります。
配偶者居住権の登記
配偶者居住権に類似した権利として賃借権があります。賃借権を第三者に主張するためには「建物の引渡しを受ける」または「賃借権の登記」が必要です。
ですが、配偶者居住権を第三者に主張する方法は「登記」のみです。
また相続登記は単独申請(相続人が1人で登記できる)ですが、配偶者居住権の登記については、その配偶者と建物の所有者が共同で申請するのが原則で、配偶者を登記権利者、建物の所有者を登記義務者として申請することになります。
ただ遺産分割の審判によって配偶者居住権を取得したときには、配偶者は単独で登記申請をすることができます。
配偶者居住権3つの注意点
配偶者居住権は、基本的には配偶者を保護するために新しく創設された権利ですが、次の3点については事前に注意する必要があります。
- 被相続人が相続開始のときに居住建物を配偶者以外のものと共有していた場合には、配偶者居住権を取得できない
- 配偶者居住権は譲渡することができない
配偶者居住権を譲渡することはできないので、配偶者居住権を売却して譲渡代金を得ることもできません。
- 配偶者居住権の存続期間は原則として配偶者の終身の間ですが、遺産分割協議等でこの期間は短くなることがある
配偶者居住権は原則として配偶者の終身の間存続します。ただしその期間が短くなることもあります。